Chapter Text
崩れ落ちる視界。声にならない叫び声が、喉からどろどろと漏れ落ちる。
真っ青な星の奥底で、ある戦いの終止符が今まさに打たれた瞬間だった。
「アアアアアアアァァァァァァァァァァアァアアアアアアァァァァア――!!」
仰向けに倒れた青に染まりゆくパワードスーツの女に、青く発光する外骨格(パワードスーツ)の存在が、今際の際の叫びとともに手を伸ばした。
外骨格は砕け、無機質な黄金色の瞳が顕になっている。装甲は剥がれ落ち、醜い内部構造(ハラワタ)が露わになっている。苦悶の表情を浮かべ、なお縋るようにパワードスーツの女へと手を伸ばしている。
パワードスーツの女は、ただ冷ややかに宿敵が散るのを眺めていた。宇宙銀河に汚染の種を蒔き、数多の文明を滅ぼし、仲間たちの命を奪った、怨敵の。
(厭だ)
懸命に伸ばしても、その手は届かない。
ただただ死へと落ちゆくのみ。
(諦めるものか)
死にたくない、という叫び声が耳朶を突き刺す。
パワードスーツの女は、冷たい瞳で右腕のキャノンを向けている。
(まだ私はサムスへの復讐を果たしていない)
(まだ私は宇宙海賊共を皆殺しにしていない)
(まだ私は、遍く宇宙銀河をフェイゾンの光で満たしていない――!!)
体の内側から、青い光の粒子になって消えていく。
まるで星の最期のように、爆発を起こして――それは、散った。
――散った、はずだった。
今度こそ、死という名の奈落の監獄で――永遠に目覚めない、はずだった。
* * *
辺り一面に、漆黒の暗闇が立ち込めている。
もう何も見えない。何も聞こえない。何も感じない。
ただただ、暗闇の中へと浮かんでいる感覚すらも、無い。
――ああ、そうか。これが、完全なる死というものか……
落ちていくとも浮かび上がっていくともつかない感覚。『それ』は、闇の中を漂っていた。時間の感覚も分からない。ただただ深い闇の中を漂流していくそんな中――不意に、手が伸びた。水中に沈んだ『それ』を、やや乱暴な手つきで引き上げる。
その瞬間、『それ』の視界に色が付いた。そこは、青い燐光が漂う空間だった。そうして、『それ』には自身の姿も、引き上げた相手の姿もよく見えた。
自らの姿は、夜空のような色彩の頭髪を持ち、生気のない白い肌を持つ黄金色の瞳を持つ、凛とした端正な顔立ちの、女。引き締まった肉体は、まるで鋭い刃のようだった。表情の乏しさも相まって、彼女は無機質な人形のような美しさを秘めていた。
そして相手の姿は、癖のついた縹色の頭髪をなびかせる、相反する青い右目と赤い左目を持ち合わせた中性的で美しい顔立ちの、浅葱色を基調としたフードの付いたローブに身を包む若々しい青年。中性的で耽美な出で立ちは、どこか蝶を思わせる。
青年が手を離す。そこには、透明な雲が固まったような地面があった。足に力が入ることを確認し、『それ』はふわりと浮き上がった。
「……何だ、貴様は」
「貴様を死という名の監獄から救い上げてやったのだが、感謝の一つも無しか――まあいい」
そして、『それ』は右腕の武装――アームキャノンを青年へと構える。青年の声は見た目の若々しさに比べて低く落ち着いており、何よりも、冷たい。銃口を向けられているにも関わらず、酷く落ち着いた様子を見せている。――その気になれば、目の前の女などいつでもひねり潰し、再び死の監獄へ閉ざせるといった目つきだった。
「貴様は一体何なんだ、と聞いている」
「神だ、と言ったらどうする?」
「……何だと?」
『それ』の問いかけに、青年は皮肉的な笑みを浮かべて、相も変わらず冷たい声で答える。神。その単語に、『それ』の表情が揺らぐ。これまで数多の文明種族を踏みにじった彼女は、そのような単語を幾度か目にしたことがある。天地を統べる人智を超えた尊き存在が、いつだって自分たちを救ってくれると信じ――結果『それ』の蹂躙に対しても神にすがるばかりで無抵抗の種族もあった。
そんなもの、居るはずが無い。都合よく手を差し伸べる存在など――あるはずが無い。たとえ相手が神だろうと――この力の前には、無力だろう。『それ』の中には、傲慢な存念が根付いていた。
「馬鹿げたことを言うな。そんなもの……存在しないに決まっている」
「嗚呼。神などいない。――幻想の薄れた、貴様の世界を言うのなら、な」
青年は挑発的に笑い、嘲笑うように瞳を細めた。その瞳は生命をいとも簡単に散らせるほどに鋭く、冷たい。しかし、それで怯む『それ』ではない。アームキャノンを向け、ギリ、と歯ぎしりを一つ。それでいて、『それ』が発砲出来るほどの余裕は――無かった。
「貴様には叶えたい願いがある。そうだろう」
「はっ、それが何かまで――」
「フェイゾン無き今、完全なる死を迎えた今。英雄サムス・アランへの復讐を果たし、その首を自らのモノとする。それが貴様の願いだろう?」
青年の言葉に、『それ』は所詮虚勢だと嘲笑う。しかし、次の瞬間に青年の口から出たのは――『それ』の、核心を突く言葉だった。
そうだ。彼女を殺さなければならない。
私を何度も殺した愛する彼女を殺して、憎むべきその首を掻き抱く。
それが、私の――
「もしそれが叶うとして、貴様はどうするのだ? まさか願いを捨ててこのまま死の監獄に閉じこもる貴様ではあるまい?」
「叶う……のか? それが……」
青年の言葉に、『それ』の声色が、やや明るさを含んだモノへと変わる。『それ』は誰も信じては居なかった。青年を信じようともしなかったが、その信念が今、揺れ動いた。
「ああ。ただし――対価はいただくがな」
期待に満ちた『それ』の声に、青年が不敵に笑う。
青年には『それ』の力が必要だった。『それ』の持つ絶大的な力があれば、目的の成就に一歩近づくことが出来る。
――そこで、『それ』の態度は再び硬化した。再び声を低めて、警戒心を顕わにして呟く。
「その対価とは何だ? 私の肉体か? それとも力か?」
「私の手となり足となり戦うことだ――出来るか?」
「……戯れ言をッ!!」
指し示された対価。それを意味するは、服従。『それ』にとっては、最も侮蔑するべきものだった。怒号と共に『それ』が、アームキャノンからミサイルを放つ。しかしそれは、青年を傷つけるには至らなかった。青年はその場からふわりと消失し、ミサイルが過ぎ去った瞬間に『それ』の目の前に現れ、そのまま『それ』の首根っこを両の手で掴んだ。青と赤の瞳が、『それ』を見下すように睨み付ける。
「持ち前の傲慢さが徒となったな」
「が、は……」
青年は手に力を入れていく。喉を締め上げられる感覚に、『それ』が苦悶の声を上げる。しかし、次の瞬間には『それ』の強烈な蹴りが青年の腹部を直撃し、彼を突き飛ばす。この空間に壁は無いらしく、青年は『それ』から少し離れたところで踏みとどまった。
――『それ』の肌を這いずるように、溶けるようにして装甲が包む。
「私に戦いを挑むか……愚か者がッ!!」
青年が歪な昂揚の表情を浮かべ、号令をかけるように右の腕を振るう。瞬間、シャラン、と鈴が鳴るような音が鳴り響いた。
――そして。
「ぐあぁあぁ……っ!?」
何十本もの光の鎖が、『それ』の装甲を、肉体を貫いていた。たまらず、『それ』が苦悶の悲鳴を上げる。それまで不敵に、気丈に振る舞っていた、『それ』が。
鎖は装甲を砕き、『それ』の肉体を、首を、きつく締め上げていく。
「ぐ……っ、ううっ……」
その様子を見て、青年は嗜虐的な笑みを浮かべながら、膝を着いた『それ』へと一歩、また一歩と近づいて来る。
「これから、我が手駒として働いて貰うぞ――『ダークサムス』」
「何故……私の、名を…………」
霞んでいく視界。
最後に見えたのは、聞こえたのは、嘲笑うような青年の顔と声だった――
* * *
亜空間・黒の大聖堂。
常軌を逸したこの空間で、唯一道理の通る空間。
その廊下を、二人の少年が歩いていた。
片方は、赤と青に彩られた二股帽子を被り、ラベンダー色のブラウスと帽子と配色が逆転したバルーンパンツを纏い、つま先の反り返った革靴を履いた、藤色の短い頭髪をした深い紫の瞳を持つ道化師風の少年。
もう片方は、猫の耳のような二つの先端が白いツノがついたフードをかぶり、黄色の歯車の意匠が入った水色のローブの上に白いマントを纏った、唐茶色の肌をした栗色の癖のついた頭髪をもつ黄金色の瞳の魔術師風の少年だった。
「マホロアー、タブーの奴が新入りを見つけたって本当なのサ?」
「ついサッキ、ガノンドロフとギラヒムたちが話シテるのを聞いタヨォ」
道化師風の少年の名は、マルク。魔術師風の少年の名は、マホロア。
どちらも宇宙銀河の支配を目論見、英雄たちの一人である星の戦士・カービィに倒された悪しき存在である。
二人は同じ世界の住人であり、互いに会話を交わしていたが、別段仲良しと行った雰囲気は感じられなかった。
「何デモ、リドリーの知り合いダとかナントカ言ってたネェ」
「ふーん……役に立ちそうな強い奴なら誰だって大歓迎なのサ」
そんなことを話しながら、二人は玉座の間へと続く巨大な扉を押し開ける。既に、玉座の間にはこの組織の――『ヴィランズ・ユニオン』の幹部全員が揃っていた。
違ったことと言えば、昨日まで空席だった円卓の椅子には、既に黒い外骨格の女が鎮座していたことだった。
「……来たか。遅いぞ」
「ご、ごめんなさいなのサタブー様!」
「許そう。次からは気をつけるように」
上座に座るローブの青年――タブーの威圧するような低い声に、堪らずマルクとマホロアは頭を下げた。しかし、タブーはそれを許すと、二人はほっとしたようにそれぞれの席へと着いた。
「紹介しよう。この度我らが同胞となった――」
「……ダークサムスだ」
タブーの厳かな声に、黒いパワードスーツの女――ダークサムスが、抑揚の無い冷たく幼い声色で続く。その黄金色の瞳は、輝きを失っていた。
ダークサムス。
嘗て宇宙銀河に汚染の種を蒔いた厄災であり、ただ一人の戦士へと復讐を願った黒い悪魔。宇宙を股にかける賞金稼ぎにして銀河の守護者たるサムス・アランとの激闘の末に、その輝きを散らしたはずの生命。
それに、円卓に足を乗せ、手を頭の後ろに回してふんぞり返っている、紫黒色のプロテクタースーツのようなモノを纏った逆立った深紫の頭髪をした黄金色の瞳の、悪魔のような大きな翼を持つ痩せぎすの大男が、嗤うように「はっ」と息を吐いた。彼の名はリドリー。残虐な破落者(ならずもの)集団である宇宙海賊(スペースパイレーツ)のヘッドであり――ダークサムスと同じく、サムス・アランの宿敵だ。
この二人に直接の面識は無い。嘗てダークサムスの元で戦っていた『オメガリドリー』なる存在(もんてい)は、リドリーのクローンである。
「まァた一つ心強い手駒が増えたじゃねーか、タブーさんよォ……?」
「私語を慎め、リドリー。それとも、此奴の世話係になるか」
「おー怖い。相変わらず良いご身分で――」
嘲るようなリドリーの口ぶりに、タブーが手を鳴らす。刹那、リドリーの左の腕が、付け根からずっぱりと切り落とされたように、落ちた。腕が床とぶつかるごてん、と言う音と、流れる生暖かい自らの鮮血に、リドリーは不機嫌そうにため息を吐いた。
「では、解散。この世界に絶望を」
「英雄と神々に死を!!」
タブーの声に、その場にいるリドリーとダークサムス以外の幹部一同が声をそろえて斉唱する。
――この世界に絶望を、英雄と神々に死を。
希望の星々を殺戮し、最終的には比翼の化身と呼ばれるこの世界の統括者、マスターハンドとクレイジーハンドを、殺す。
それが、この組織――ヴィランズ・ユニオンが掲げる思想であり、理想であった。他の幹部たちがこぞって席を立ち、玉座の間の円卓には左腕を切り落とされたリドリーと、右も左も分からないダークサムスのみが残されていた。
「ったく……あの気違いファザコン坊ちゃんが……」
ブツブツと不平不満を吐き捨てながら、リドリーは切り落とされた左腕を右腕で持ち上げ、血のにじむ左肩を気にすること無く立ち去っていった。おかげで、彼の通路には血の赤い滴が転々と続いている。ダークサムスはそれを見送ると、タブーが座るのであろう玉座の背後に描かれたステンドグラスが目に付いた。
そこに描かれていたのは、天から地上を見下ろすような構図の、ステンシル状の蝶の翅のような形をした翼を生やした青年。奇しくもその特徴は、タブーと合致していた。そしてその両脇は、意図的に破壊されたように抜け落ち――青と緑、紫色をぐちゃぐちゃに混ぜた、混沌とした空が覗いていた。
「……貴様、まだ居たのか」
呆れたような、タブーの声が聞こえた。そちらへと振り向くと、彼が立っている。ダークサムスは席からゆっくりと立つと、光のない無機質な瞳で彼の双眸を睨み付けた。
「何だ、その顔は。まるで生まれたての赤ん坊のようじゃあないか――ああ、無理も無いか。権能の加減を間違えたからな」
人形のように生気の無い表情のダークサムス。そんな彼女に、タブーは笑うように告げる。
権能。神の化身が持つ力であり、超常的な能力。タブーも、権能を行使できる神の化身であった。彼の権能は、不可能を可能にするもの。故にどんなに強力な悪役(ヴィラン)であろうと――権能の鎖を課し、その手に従えることが出来るのだ。
本来ならば、ダークサムスにかかっている権能は微弱で希薄なモノであるはずだった。しかし激情に任せたタブーが、権能をかけるための短剣を深く突き刺してしまい――結果、ダークサムスはタブーに対して意志のない人形と化してしまったと言うわけである。
「まあ貴様のような存在は、意志がない方が扱いやすいからな。嗚呼、リドリーの意志も奪うべきだったか」
「…………」
くっくっと、歪な表情でタブーは笑う。光の無い瞳で彼の表情を見つめるダークサムスの奥底では、閉ざされた激情が洗脳と言う分厚い鋼鉄の扉を壊そうと足掻いていた。
意識が叫ぶ。巫山戯るな、巫山戯るな! 貴様の思い通りになど、させはしない――!
「まあいい、些細なことだ。付いてこい、案内してやろう」
くるりと踵を返し、カツカツと足音を響かせてタブーが歩く。燕尾状の裾を揺らしながら歩く姿は、蝶を思わせる華麗さがあった。
「はい、タブー様」
奥底の激情に耳を塞ぎ、ダークサムスは重力を感じさせない足取りで後を追いかける。そうして案内されたのは、中央に光り輝く結晶が浮かんでいるのみの何も無い巨大な部屋だった。
「……ここ、は」
「貴様の部屋だ。好きに使うといい。直に貴様の色に染まるだろう」
ダークサムスにその一言だけを告げ、タブーが部屋を出る。一人、残されたダークサムスは、部屋の中央に浮かぶ光り輝く結晶を眺めていた。それを不審に思いつつ、右腕をアームキャノンへと変化させて、近づく。そうして、アームキャノンを向けながらも、武装の無い左の手で結晶に触れた。
「っ、ぐ……!」
――パリィン、と高い音を立てて結晶が砕け、瞳を灼き潰されそうな程に目映い光が広がる。光が届いた場所から、部屋の内装が変化していく。やがてこの何も無かった広いだけの部屋は、青く輝く鉱石が点在し、これまた青く発光する植物が生い茂る――洞窟と深海を混ぜ合わせたような空間に変化した。
「――これ、は……?」
ダークサムスの記憶に、あるモノが蘇る。それは、惑星ターロンⅣのインパクトクレーターにて子を育んでいた頃の記憶。そして、母胎となる惑星フェイザにて彼女を――サムス・アランを、待ち望んでいた頃の記憶。始まりと終わりを想起させるメビウスの輪のような空間で、ダークサムスは息を吐いた。
天井からまばらに吊り下げられている鉱石状の照明は、フェイゾンを連想させるように揺らぎ揺らめいている。淡い光を放つ花は、ダークサムスの記憶を混ぜ合わせたのかそれぞれに違う花が咲いている。触手状の照明が、ゆらゆらと揺らいでいる。
(心なしか、とても居心地が良い――気が、する)
気がつけば、ダークサムスの意識は眠りに落ちていた。
微睡みの中で――タブーによる洗脳と、足掻き苦しむ本心の間で混濁する意識の海を、必死にもがき泳ぐような夢を見ていた。
違う。私の居るべき場所はここじゃ無い。
ならば何処に行くべきなのだろう。何処にも、私の安息の場所など無いはずなのに。
サムスを探さなくては。彼女を殺すために。
ではどのような手段で探すと言うのだ。
――そもそも、フェイゾン亡き今、私の存在は確立されるのだろうか?
混濁する意識の海を泳ぐダークサムスを引き上げたのは――常人ならば痛みだけでもショック死するような酷痛だった。
「が、は…………っ」
胸元を見る。鋭い槍の穂先のようなモノが、胸を貫通している――!
(確かこれは、『リドリー』と言うあの翼竜種の尾ではないか……?)
激しい損傷を受けたと言うのに、ダークサムスの思考は至って冷静だった。否、死の直前にこれまで生きていたことが想起されるように、ダークサムスの思考は素早く動いていた。尾が引き抜かれる。ダークサムスは、無様に部屋の床に血反吐を――基、フェイゾンの塊を吐いてしまう。
「がはァっ……!」
「ほぉ、殺しても死なねェっつうのはあながち間違いでもなさそうだな」
床に手を付き、振り向いて背後を睨む。そこには、歪な笑みを浮かべる深紫の頭髪をした翼持つ男が立っていた。――リドリーだ。先ほどタブーに切り落とされた左腕は、最初から切り落とされてなどいなかったようにすっかり治っている。細い指は鋭い爪に姿を変え、口からは鋭い牙が覗いている。そうして、彼はゆっくりと舌なめずりをした。
「俺様、最近鬱憤が溜まっててさァ?」
一歩、また一歩と近づいてくる死神。ダークサムスの全細胞が、警報を鳴らしている。
「殺しても死なねェんならよォ……サンドバッグ代わりにお気軽に殴れるってことだよなァ!」
ダークサムスの意見などクソ食らえとでも言うかのように、一方的に叫び散らすリドリー。次の瞬間、彼は床を蹴って跳躍。ダークサムスへと一気に距離を詰めてきた。無論、やられてばかりのダークサムスではない。彼女の肉体を、装甲が溶けるように覆う。胸を、脚を、腕を溶けるように覆っていく装甲は、まるで生体のような姿をしていた。装甲が顔を覆ったところで、ダークサムスは反撃に乗り出した。胸の重傷など厭わず、ひらりと回避し、リドリーに散弾――シュラプネルビームを撃ち込んだ。無数のエネルギー弾が、リドリーに襲いかかる。彼の頬を掠め、傷と血の線を引いていく。
「テメェ……避けてんじゃあねェぞッ!!」
「……私がそう簡単に殺せるとでも思っていたのか。よほど死に急いでいるらしいな、貴様」
抵抗されたことに怒り狂うリドリーへと、ダークサムスは冷徹にアームキャノンを向ける。
エネルギー生命体であるダークサムスは実質的に不死身だ。フェイゾンさえあれば、いかなる傷でも瞬時に自己再生し、自らの肉体の強化も叶う。だがしかし、今この世界にフェイゾンの気配は感じられない。故にこれは、ダークサムスにとっては賭けも等しい行為だった。胸の傷は少しずつ塞がりつつあるものの、フェイゾンが止めどなく溢れている。
リドリーは舌打ちを一つして息を吸い、そうして全てを焼き尽くさんばかりの超高温のプラズマブレスを吐いた。ダークサムスは軽々とそれを回避し、空いた口めがけてミサイルを放つ。リドリーはそれを見ると横へと回避し、尾をダークサムスめがけて突き刺す。ダークサムスはそれを辛うじて回避するが、鋭利な刃を完全に避けるとまでは行かず、左肩を掠めてしまった。
「っ…………!」
揺らぐ視界。傷は塞がったが、受けたダメージは未だ癒えていない。
「タブーから聞いたぜェ? テメェ、サムスを殺したいんだってなァ……?」
笑い声混じりのリドリーの声が聞こえる。嗚呼、そうだ、此奴は確か。記憶の中の記録を思い出そうとも、傷の痛みがノイズとなって妨害している。小さな嗚咽の声を吐いて苦しむダークサムスを見下すように、リドリーが、嗤う。
「ざーんねん。テメェがサムスを殺す日は来ねェぜ……今からテメェもサムスも俺様の獲物になるからなァッ!!」
高揚感に身を震わせ、破綻した高笑いを上げるリドリー。それを聞いたダークサムスの胸の内から、どす黒い感情が湧き上がっていく。
此奴、今なんと言った……?
サムスを殺すのは俺様だ、だと?
違う。サムスを殺すのは私だ。殺して、その首を掻き抱くんだ。
――此奴は敵だ。殺せ、殺すんだ! 『ダークサムス』ッ!!
高笑いを上げるリドリーが、がふっ、と鮮血を吐く。――ハイになっていた故に、ダークサムスの放ったスーパーミサイルに、脇腹を直撃したスーパーミサイルに気がつかなかったのだ。
「違う……」
ゆらり、よろめきながら立ち上がる。歯を食いしばる。照準を定める。目の前の男は、めでたく殺すべき存在として昇華された。
そうだ。殺すんだ。
サムスを殺す前に、此奴(リドリー)という名の障害を潰さなければならない。
「サムスを殺すのは私だ……邪魔者にはご退場願おうかッ!!」
撃ち出される散弾。吐き出される高熱。それらがぶつかり合い、爆発を引き起こした。爆煙の中から、ダークサムスは飛び出す。そうして、リドリーの後頭部にアームキャノンを突きつけたところで――
「貴様らッ! 何をやっているッ!!」
タブーの声が、二人の激闘を断ち切るかのように響いた。双方共に手を止め、声の響いた方へと振り向く。そこには極光のような色彩をした、芸術品のような造形の大剣を携えたタブーと、あの円卓に集っていた他のヴィランズ幹部が見えた。大方、暴れる二人を鎮圧しに来たのだろう。
「双方共に武器を納めろ。さもなくば、貴様らを裁く」
大剣を携えたまま、タブーがダークサムスへと、リドリーへと距離を詰めていく。ダークサムスは言われるがまま数歩後ずさりをして、そして――
下腹部を、ぐしゃりとリドリーの尾に貫かれた。
崩れ落ちる肉体。遠ざかる音。
タブーの声も届かぬまま、ダークサムスは意識を手放した――
